吉村さんに四方八方からボコボコに殴られた。
やっぱり家族って素晴らしい
そこからくる怒りの捌け口を見つけようとするが、そんなものは見つかるはずもなかった。
経験値を比べれば火を見るよりも明らかだ。
僕には起業した経験がない。
それどころか社会人経験も少ない。
それに比べて吉村さんには十分な社会人経験があり、その上で自らのスキルを磨き結果を出し、今では独立して多くの起業家達のコンサルタント業なども行っている。
きっと僕のやり方が間違っているのだろう。
そう思わざるを得なかった。
どうする俺。
やはりダメなのか。
まだ会社を辞めたわけではない。
このチャレンジに対して支払った大きな出費もまだない。
やはり、まだ大人しくサラリーマンをやっていくべきだということなのだろうか。
そんなことを考えながら数日が経って行った。
どうやったら子供たちが楽しむコンテンツが作れるか。
そんなことを考えられる余裕はなくなっていた。
しかしそんな時、やっぱり僕を励ましてくれたのは、「家族」だった。
僕は普段からなんでも妻に話をする。
吉村さんと話した内容も妻に話していた。
そして妻は、その時から僕が少し落ち込み気味だということを見抜いていたのだろう。
ある日妻は僕にこう言った。
「きっとこのチャレンジに対する自分の気持ちを試すための試練なんじゃない?私は今あなたがこのチャレンジを辞めてもガッカリしないよ。だってあなたはいつも何かを探しているし、どうせまた違う何かを見つけて始めるでしょうから。次はそれが起業なのかどうかはわからないけど、たぶんあなたにとって何かにチャレンジしている時間があなたの生活を充実させてる。だからチャレンジすることで嫌な気持ちになるほど続ける必要はないのかもしれないよね。でもあなたは責任感が強いから、ずっと頭の片隅で「あの時失敗したんだ」というような後ろめたさを感じるかもしれないからそこは心配だけど。
どれだけこの人は僕の心を見透かしているんだ?
そして何故ここまで優しい言葉をかけられるのだ?
そして何故ここまで協力的になれるのだ?
待てよ、
もしかして、
僕はこれまで、周りから「なんでもある程度器用に出来る人間」という位置づけをされながら生きてきたと思っている。
スポーツが得意なことを褒められたり。
歌が上手いと褒められたり。
少数派の選択をしたり。
日本人から見てとてもバリューを感じられる「英語」が話せることを羨ましがられたり。
いい意味で変わっている人だよね。
才能がある人だよね。
自分で言うのもなんだが、事実そう思われることも多かった。
そしてなぜかこう思われることが多かった。
「緊張しない奴」
なぜ人前に出ても自信を持って堂々していられるのかと何度も聞かれたことがある。
でも実際は全然違う。
本当の僕は
本当はそんなに器用な人間ではないし、特別な才能があるとも全く思っていない。
そして、人前に出る時など自分に注目が集まる瞬間は、決まって自分の順番が来る数分前から緊張してくる。
手汗も止まらなくなるし。
ただ、いつもそれがバレていないだけなのだ。
でも、実際それがバレないように振舞おうとしていることは確かだった。
僕はいつしか、過大評価されているかもしれないと思いながらも、せっかくそう思ってくれている人達がいるのであれば、その僕のイメージを壊さないように、期待を裏切らないように、過大評価された自分をしっかり演じられるように人前に出るその日までに準備をするようになっていた。
でもこれは正直しんどかった。
出来ないと言ってしまえば楽だということはわかっていた。
しかし、出来る人というイメージを守りたかったのだ。
だから昔から疲れると感じることは多かったが、何とかイメージを守ろうと、カッコいい奴でいようと頑張った。
でもふと思った。
これはもしかして逆では?
今まで周りのみんなが僕のことを評価してくれていたと思っていたのは、実はそうではなくて、単なる僕の思い込みなのではないか?
僕自身が「僕はこうありたい」という僕の理想像を作りだし、その理想像を演じている僕にみんなが乗っかってくれていただけなのではないか?
だとしたら、
めちゃくちゃ恥ずかしい!
そう考えた瞬間、自分の背中がどんどん猫背になり、耳の後ろがじわじわ熱くなり体温の上昇を感じた。
俺しょうもなっ!
しかし次の瞬間、僕の中で何かが吹っ切れた。
じゃあ、もう格好つけなくていいじゃないか。
出来ない自分を認めて、素直に今から頑張る僕でいいではないか。
なにを自ら勝手に背負って、緊張して、疲れていたんだ。
始めからそんな必要はなかった。
今までやったことないことを3カ月程度やってみたくらいで、吉村さんに、
「おおおお!すごいですね!!負けました!」
なんて言われると思っていたことが、そもそも自分自身を過大評価していたに過ぎないと気が付いたのだ。
そう考えられるようになった僕は、この日からすごくいい意味で力が抜けた。
もちろんこのチャレンジをあきらめようとは全く思わなくなった。
そして重要なことを、僕を傷つけないように気づかせてくれた「妻」に心の中で本当に感謝した。
僕には守るべき家族がいる。
まだ小さい息子もいる。
周りの目を気にして余計な圧力を自分にかけて背伸びをして見せても現実は変わらない。
そんなことよりも、今の自分を受け入れて、一歩ずつ自分が出来るペースで進む。
まず自分が自分自身でいられることが一番。
もう、無理しなくてもいい。
だって、本当の自分をすでに受け入れてくれている家族がいるのだから。
これからは、本当の自分が評価されるように、マジで成長してやるんだ。