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喜びと不安の間で

初日の営業活動から自信をつけた僕は、それから基本毎日昼休憩には営業電話をすると決め、一日約30分程度だが外の公園に出向いては電話を掛ける日々が始まった。

 

“極”小規模事業投資

しかし、もうこの時期は10月の半ば。

外に30分いるのは、風が強い日だとだいぶ肌寒くなっていた。

しかも、その場所は公園とは名ばかりで、しっかりしたベンチやテーブルがある場所ではなく、電話をする時はいつも立ったままその公園と一般道路を仕切る石作りの柵のような部分にノートと鉛筆を置いて行うという、お世辞にも理想的な形とは言えないやり方をしていた。

僕の中で、この営業電話は長期戦を予想していた。

このまま真冬に突入したら、きっとこの外にいる時間自体が苦痛になり、それを言い訳に心が折れてしまうかもしれないと思った。

気持ちは本当に大事だ。

病は気からだ。

だから余計な言い訳が出来ない状況に自分を追い込まなければ、いつ甘えが出てしまうかわからない。

そんな時、僕にはあるアイデアが浮かんだ。

カラオケボックスだ。

会社の近くにカラオケボックスがあることを思い出した。

多少お金はかかるが、寒さに耐えながらベンチもない場所で電話をするより、周りの目も気にせずに暖かい場所で座って電話が出来れば、その方が効率が上がるのではないかと考えたのだ。

そこで、早速次の日からカラオケボックス通いが始まった。

お昼時間は約1時間なので、近くでお昼を食べてから行くことを考えると、実際の滞在時間は約30分程度。

通常こちらのカラオケボックスは30分単位で利用可能だが、さすがにバタバタするので1時間で入室。

しかし、店員さんが飲み物を持ってきてくれるのに大体5分程度はかかることが多く、それから落ち着いて電話を始めようと考えるとおよそ20程度しか時間は取れなかった。

20分しか使えないのに1時間分支払うのか~。

貧乏性の僕からすると、この40分間の料金を無駄にすることになることが非常に悔やまれたが、外で電話し続けるよりはましだと考えこの方法を続けることにした。

話しの内容によるが、毎日約4,5件の幼稚園に電話をかける。

時間帯は大体午後3時頃を目安にしていた。

理由としては、これまで何件か電話をする中でその時間帯がいいとわかったからだ。

ほとんどの幼稚園は午後1:30~2:00頃には終了する。

そして、職員さんたちはそれから打ち合わせをしたり、カリキュラムで使用する備品を手作りしたりと子供達の保育から手が離れるので、そのあたりの時間を狙って電話をした方がいいとアドバイスを頂いていたのだ。

そして、ラッキーなことに僕のこの時働いていた会社は、お昼休憩をそれぞれが自分のタイミングで取ることが許されていた。

皆が自分の仕事の進み具合で一日のスケジュールを決めていたのだ。

そして、僕は普段からもともと遅めにお昼休憩を取るタイプだったので、この時間帯に休憩に出かけることも不自然に思われなかった。

僕は非常にポジティブな人間なので、こういった小さなことでも、

いい流れが来てる!

やるべきことをやっているに違いない!

なんて思ってしまうタイプだ。

だからきっといいことがある。

そう思い続けて電話し続けた。

数日続けてみて思うことは、とにかく意外と皆さん話を聞いてくれる。

是非協力したいと言ってくれる園こそ現れないが、発想はいい考えだと思います。がんばってくださいねとエールをくれる。

もちろん中には、否定的な意見をくれる人もいるが、そんなことは想定内だし、むしろこうやって現場の生の意見が聞けるということは非常に価値のあることなのである。

僕は、営業電話をかける時には話す内容をスクリプトにまとめて用意していた。

基本的にはそれを正確に読む。

その上で帰ってきた反応に合わせてのリアクションパターンをいくつか用意して、それを日々改善していくということを行っていった。

すごく地道な方法である。

しかし、これ以外どうしたらいいかわからなかった。

でもきっといい出会いがあると信じて続けた。

そんなある日のこと、

いつものように電話をしていると、ある幼稚園の理事長代理が電話に出た。

 

喜びと不安の間で

そしていつものように話を始めると、とても興味を持ってくれたのだ。

なんでも、新しい取り組みにアンテナを張るようにしていて、本当にうちの園にとって良い!と思うものであればそこには十分なコストをかけるという。

話をしていくと、理事長代理は僕と同い年。

なんだか気が合いそうな気もしてきた。

そして、なんとその理事長代理のお父様は、ある政治家の方だった。

これはもしかしたら、飛び級レベルで大型契約が取れてしまうのでは!?

そんな想いに心を踊らせながら話をしていた。

すると、理事長代理からこんな質問があった。

「考えはすごくいいと思うんですよ!でも個人で電話してきてるんですよね?まだ法人化してないんですよね?」

もちろん僕は個人だった。

個人事業主ですらない、本当にただの一般人だった。

そしてその上でこう言われた。

「やっぱりビジネスをすることを考えると、しっかりした形が出来ていないと難しいというのが正直なところです。というのは、Geshiさんは今の段階では、事業を組み立てるために子供たちにお試しをさせてくれるモニター園として協力してくれる園を探していると言ってましたよね。では、例えば実際に当園でそれを行うとします。しかし、数カ月程度やってみて、やっぱりGeshiさんの中で、これはちょっと無理そうだなってなったらどうなりますか?当園としても何かを始めるのであればそれなりの覚悟で始めます。しかし、Geshiさんに辞められてしまったら残された当園はどうなりますか?」

これに関しては、理事長代理のおっしゃる通りだと思った。

確かに、この時僕の中には途中で辞めるという選択肢はなかった。

しかし、ビジネスを行う相手からしたら、実績の無い素人の未確定な理想の夢物語に時間を費やすことは、ただのリスクでしかない。

だったらすでに実績があって、全国的に知名度のある英会話教室にお願いした方が、園ももちろんだが、保護者の皆さんも安心だし嬉しいであろう。

結局、

「また法人化してビジネスとして話が出来るようになったら連絡ください。アイデアは時代に会っていてとても面白いと思うので。」

最後にそう言われて約30分程度続いた理事長代理との電話は終わった。

休憩時間は過ぎていた。

ただ、そんなことはもうどうでもよかった。

その時の僕の頭の中は、さすがのポジティブな僕でも複雑だった。

僕は個人だ。

個人事業主ですらない。

会社はやはり会社と取引をする。

そんなの当たり前の事だ。

これは無謀な挑戦なのか?

今の段階でこんな営業活動をすることは無駄なことなのか?

やっぱり、無理なのか。

そんなネガティブ思考が頭の中をぐるぐる回って、明日また引き続き電話をかける気力があるかどうか、この時の僕は自信がなくなっていた。