独立ブログ

ドリームキラー No.2 現る

金井さんと約束をしていた当日、僕は自分の事業計画をしっかり伝えるため、出来る限りの準備をした。

 

ボコボコにされた事業内容

プレゼン資料の作成、そしてもう一つ、事業計画書だ。

時間をかけて何度も作り直して、やっとなんとかまとまった。

しかし、この事業計画書の作成に関して、僕の中で腑に落ちていない部分があった。

それは、そもそもみんなどうやって計画なんか立てるんだろうということ。

僕は本当にそんなこと出来るのか疑っていた。

というのも、事業計画なんてものは結局理想の未来を予測して立てるに過ぎないと思っていたからだ。

僕はこの時点では、全く未来の道筋がみえておらず、ただひたすら思い描いているぼんやりとしたイメージやアイデアが思いつく限り行動に移して、その場に形作って行くことしかできなかった。

でもなぜか成功するような気がしていた。

これこそ根拠のない自信というやつかもしれない。

しかし、金井さんが昔からよく言うことがある。

それがまさに、

「事業計画書を作らないと話にならない」

といったことだった。

金井さんがメインで行っているのはWEBマーケティング。

どのような商品を、どのような価格帯で、どのような層を狙っていけばいいのかを熟知しているとのこと。

そんな集客のプロなだけあり、事前のデータ収集を徹底して行って事業プランを組み立てているようだった。

金井さんは、事業を始めるのであれば、データ収集を十分に行って完璧なプランを立ててからでないとやるべきではない。

そういう考えの人だった。

そして夕方になり、金井さんと都内のレストランで待ち合わせをした。

金井さんは、若干圧の強い感じの男性だ。

声もデカい。

いつも自信が体からみなぎっている様子が伺える。

そしてその日もいつもと変わらない金井さんだった。

僕たちは案内されたお店の隅の席に座り、お互いの近況をなんとなく話し始めた。

ドリンクで乾杯し、少しずつ前菜が運ばれ始めた頃、本題に入った。

僕は一生懸命作成したプレゼン資料を差し出した。

すると、金井さんは取りつかれたようにその資料に目を通した。

しかし、同時に食べている箸は止まらない。

それどころか、

カチャカチャカチャカチャ、

カチャカチャカチャカチャ、、

資料を見ながらなせいか、めちゃくちゃお皿に箸がぶつかる音が聞こえてくる。

僕自身もどんな意見が返ってくるか少し緊張気味で何も言わずにその光景をただただ見ていた。

すると、

バタンッ!!!

金井さんは、食い入るように目を通していた僕のプレゼン資料を、テーブルに叩きつけるかのように強めに閉じた。

その光景は、まるでテレビドラマや映画でしか見たことのない作られたワンシーンのようだった。

そして金井さんはこう言い放った。

「全っ然だめだね!」

僕はその金井さんの剣幕に驚いた。

「なんで、ここはこうなの?」

「このデータもどういうこと?すごい見にくいんだけど!」

「こんなんじゃ全然だめだよ!」

僕のプレゼン資料は、金井さんにボロボロに否定されたのだ。

僕は喜怒哀楽の”怒”が少し欠けているのではないかと自分でも思うくらい、だいぶ穏やかなほうの人間だ。

普段の生活でほとんど怒ることはない。

そのせいか、学生時代に「優しすぎる」という理由で女の子に振られたこともある。

しかし、さすがにそんな僕でもこの時ばかりは怒りが沸いてきた。

なんとか一旦その怒りを露わにするのを留めて、とりあえず金井さんの「わかりにくい」という部分を自分の口で説明しようと思った。

まず大切な事業コンセプトから、資料に使用しているグラフや情報はとある世界的企業が算出しているデータを引用したものでいい加減なものではないといった説明をした。

すると金井さんは。

「Geshiは起業なんて向いてないよ」

「自分の経験から想うことを事業に反映させようとしてるけど、悪いけどGeshiは全然視野も広くないしダメだと思うよ。」

「ちなみに先週起きた国際的なニュースは?って聞かれたらなんだか分かる?知らないでしょ?」

「そしてここに書いてあることも、別にGeshiにいろいろ教わらなくても本読めばすむことじゃん!」

「起業なんて急がなくてもさぁ、まずはサラリーマンで結果出してさぁ、それからまあ、、、50歳くらいになってからでも遅くないんだから。」

「まあとにかく、今のままじゃ知識がなさ過ぎて絶対無理だね!」

金井さんの攻撃はとにかく止まらなかった。

今書いているこれらは氷山の一角だ。

もはや何かに取りつかれたかのようだった。

正直、これまで金井さんの言うことに違和感の感じたことは多々あった。

金井さん自身の事業の話に関してもそうだが、何よりも人間性を少し疑うような言動もチラホラ見受けられたのだ。

でも、それは僕が経験したことがないことだから理解できないだけだ。

人間性とビジネスセンスは比例するわけではないだろうから、必要な部分だけ盗めばいい。

そう思って金井さんの言うことを素直に聞く姿勢で付き合ってきた。

しかし、この日を境に僕はその姿勢を完全に覆すことになった。

 

心の広さ=視野の広さ

その理由は、上記で綴った内容がもちろんほとんどだが、実はこれ以外に絶対的に僕が違和感を感じた一言があったのだ。

僕は、金井さんがよく言う、

「まずはサラリーマンで成功してからじゃないと起業は難しい」

この考えには昔から違和感を感じていた。

だからこの日、ボロボロに言われた後に、僕は金井さんにこんな質問をしてみた。

「僕が今働いている会社の社長もそうですが、世の中の起業家には逆にサラリーマン経験がない人の方が多いイメージなんですが、そういう人たちはついてはどういう考えなんですか?」

もう負け犬の遠吠えのような返しだが、素直にどう答えるのか聞いてみたかった。

すると金井さんは、少し”二ヤッ”と笑いながら、自分の右手で自分の左腕を”パンッパンッ”と二度ほど叩きながら、こう言った。

「相当腕持ってんだよ!」

えっ?

まじか!?

僕はもう少し参考になるような、合理的な答えを期待していた。

それがまさかのこの抽象度マックスの回答に、思わず吹き出しそうになった。

あれだけいろいろボロボロに人のことを否定しておいて、何も参考になる意見を言うわけでもなく、挙句の果てに最後にこれか。

、、、。

もう目が覚めた!

やっぱり僕の違和感は正しかった。

この人は自分がサラリーマンとして実績を積み上げて、その中で培った知識で独立して今の生活を送っている。

それはもちろん素晴らしいことだし、僕にはやっぱり出来ないことだと思う。

ただ、僕は気づいた。

この人はそれ以外に方法を知らないのだ。

それ以外に方法を知らないし、それ以外のやり方は全部否定する。

僕の思う、一番「視野の狭い人」だったのだ。

確かに考えてみれば、今まで何か僕のやりたいことに背中を押してくれるようなアドバイスをくれたことがあったか?

いや、これまでただただ頭ごなしに否定されたことしかなかった。

そう、この人は紛れもなくただのドリームキラーなのだ。

この日はそのまま特に反論するようなこともなく家に帰った。

僕は、相手を変えることは不可能に近いということをこれまでに肝に銘じていた。

相手は変えられない。

その代わり、自分が変わるしかない。

そう考えるようになってきた。

とにかく。

言うまでもなく、僕にとってこの日は全く楽しくない一日だった。

もしかしたら、人生でワーストとも言えるレベルの最悪のディナータイムだった。

だけど、こんな日も僕に大事なことを気づかせてくれた大切な記念日になった。

それが分かったことが僕の大きな収穫だった。

そして、僕にとってはとても珍しいが、

「絶対に見返してやる!」

そういう気持ちが生まれた。

たまにはそういう「怒」が生み出す反骨精神も必要なのかもしれない。

それが人の魅力を押し出すこともあるのかもしれない。